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私が子供の頃に遇った事故は、私に三つの傷痕を残してしまった。
一つは胸の中央に残る大きな傷。
病的に白い私の肌にその傷はひどく目立つ。
一つは世界の綻びを視てしまう眼。
あらゆるモノの“死”を視てしまう魔眼。
一つは検査の結果判明した私の病名。
女性仮性半陰陽。男の子として育ってきた私が実は女の子だったという事実。
それらの事実はその頃の私を打ちのめした。
記憶が飛ぶほどの大事故を生き延びた私は、
その体が死ななかった代償に、
心に再起不能なまでの致命傷を負ったのだから。
月姫 Crimson moonlight,riding on the shooting star (嘘予告)
有間志姫の名を名乗るようになって八年。八年をかけた擬態もここまで来れば手慣れたものだ。私はこのままずっと、濁った湖水のような心を抱えたまま日常を消化していく……はずだった。
一通の手紙が、私に届けられるまでは。
遠野の家に戻るようにとの遠野家当主の指示。八年前に追い出した“長男”にいまさら何の用事があるというのだろうか。親父が死んだというのは新聞で読んだし、有間の両親からも聞いた。だからといって何の感慨も浮かばなかったが、この手紙にはいささか意表を突かれた。親父が死んだということは、次の当主は私の妹だった秋葉だろう。その彼女が今更私に何の用事があるというのか。
一瞬だけ思考しようとし、しかし私はその試みを放棄した。
何処にいたところで、どれ程も変わらない。
私はこのまま朽ちていくだけなのだから。この継ぎ接ぎだらけの世界の中、無感動に無関心に無気力にその死の世界を受け入れることでのみ自我を保っている私に、ものの意味なんかどれほどの価値があるだろう。あらゆるものは等価に意味がない。全ては死に覆われている。
「母さん、遠野の家に帰ることにしました」
「……そう。それが良いかもしれないわね。私達じゃ、貴女の助けにはなれなかったみたいだし」
有間の母さんは、私の狂気に気が付きながらも、実の娘と変わらない愛情を持って私を育ててくれた。感情ではなく、理性でそれを理解している。愛している人に、好きな人に、大切な人に、“死”を視る苦痛から逃れるために感情を殺してしまっている私は、それでもその残滓をもって愛する母への感謝を口にした。
「母さん、遠野志姫がこの八年間、騙し騙しでもなんとか生きてこれたのは、父さんと母さん、それと都古ちゃんのお陰です。……ありがとう。こんな言葉しか私には言えませんが、本当にありがとうございます。私にはみんなに返せる想いが無いけれど、それでも感謝しています。どうか……ご壮健で」
「琥珀……あれが、あんなのが私の兄さんだったと言うの?」
「……秋葉様、志貴様が女性だったということは知っていらした筈ですが」
「違うわ、そうじゃない。そうじゃないの。あんな……あんなどうしようもなく“終わった”眼をしているなんて。一体、一体八年の間に兄さん、いえ、姉さんに何があったって言うの?」
「先輩、私に暗示は効きませんよ?」
志姫の瞳が蒼く光る。其れは浄眼と呼ばれるものの一種。世界の異常を知覚する異能。志姫が本来持っていたモノ。
「ッチ!」
シエルと名乗った女生徒が低く、低く踏み込んでくる。それを冷徹にただ眺め見る志姫。
ヒュッ、と風を切る音と共に志姫の首筋にどこからとも無く取り出された短剣が突き出される。
「……」
「……」
「……眼も瞑らないんですね、貴女」
「私を殺したいのですか、先輩?」
息が、詰まる。
思考が沸騰する。感情が爆発する。
ナニ、コレ?
八年ぶりに動き出した感情は志姫にとってはあまりに馴染みが無いモノで、それゆえ彼女はそれに飲み込まれる。
視界が、紅い。
何て、素晴らしい。
その高揚感に、その熱狂に、その興奮に、その歓喜に、その暴走に、
彼女は打ち震えた。
『は、はは、あはははは、あははははははははははは』
目に映るのは彼女だけ。少し前を歩く、
美しい/禍々しい
引き込まれるような/飲み込まれるような
星の夢/人の悪夢
ならやることは一つだけ。
ポケットには堅い感触。素晴らしいことに道具も在るときたものだ。
ニイ、と志姫の唇がつり上がり笑みを形作る。
此処に、殺人姫が誕生する。
チラシの裏っぽいもの
何てものを書いてみた。完全に思いつきです。妄想です。プロット? そんなものないデスヨ。青本読んでて思いついただけです。志姫の性格骨子もTrigger志保の壊れLvUPしただけですしね。
珍しく月姫ネタ。月姫は好きなんですけど、思い入れが強すぎて書きにくいです。